日本のORCID:屋根の葺き替え工事

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[In English: ORCID in Japan: Re-thatching the Roof]

筑波大学が10番目の日本の機関メンバーとなったことをご報告したのは、ちょうど1年ほど前のことでした。それ以来、日本ではさらに7機関が新たにメンバーとなりましたが、まだ多くの機関では組織内での説得や、ORCID導入に必要な予算やリソースの確保に時間がかかっています。他国と比べても研究開発予算がある程度潤沢な日本のような国で、なぜそんなに時間がかかるのか、不思議に思う方もいるかもしれません。どうしてORCIDコミュニティに参加できないのか、日本の組織がよく挙げる3つの理由は以下のとおりです。

1. 既存のインフラ

研究者の名寄せが必要不可欠な国々では、すでに国内の研究者ディレクトリが整備されていることが多く、政府による研究助成金申請手続きや、国内で流通する出版物やデータベース、研究機関が利用する情報システムなどと複雑に絡み合っています。こうした既存のインフラが自己完結していれば、ORCIDが提供する主な機能はすでに国が整備し終わっていると考える人も多く、ORCIDの導入は難しくなります。

2. ORCID実装済みシステムの有無

ORCID実装済みシステムが提供されるようになり、独自のアプリケーションを開発することのできない機関の技術的困難が解消され、ORCIDメンバーシップは世界的に急速に拡大しました。特注のシステムや国内ベンダーが提供する製品を使っている場合は、ORCIDメンバー会費に加えて余計な出費と時間がかかってしまいます。国内のベンダーはその国のインフラ要件には迅速に対応しますが、顧客からの十分な要望がない限りORCIDにはなかなか対応しないかもしれません。

3. ORCID対応のためのリソース

ORCIDに対応するためのリソース配分も複雑です。ORCID導入に必要な技術要員の手配、メンバー会費の予算化、研究者への広報やサポートの提供など、すべて異なる部署が担当していることもあります。役割分担がはっきりとしていなくても、これらの担当者は職掌を超えて協力しなければなりません。


日本のメンバーミーティング(2018年4月17日)

こうした課題は日本だけでなく、非英語圏に共通するものです。先月開催された日本のメンバーミーティングは、そうした国々がどのように課題克服のために共同して取り組むことができるかという点で、たいへん示唆に富むものでした。

  • 物質・材料研究機構東京工業大学など、先行してORCIDメンバーとなった機関は、導入プロセスの中で直面した課題と、それらをどのように克服したかを共有しました。
  • 2013年に日本のシステム提供事業者として初めてのORCIDメンバーとなった株式会社アトラスは、ORCID連携支援システムを最近リリースしました。これは、本格的な基盤開発に取り組むあいだの暫定的な解決策として、京都大学総合研究大学院大学などの新しいORCIDメンバーに採用されています。
  • まだORCIDメンバーとなっていない機関も、コミュニティに積極的に参画しています。新潟大学では、ORCID導入の目的と、学内の様々なワークフローで活用する利点を明確にするため、3つの部署が力を合わせました。高輝度光科学研究センターは試験的にORCIDのテスト環境を構築し、研究施設の利用申請プロセスにORCID認証を取り入れることにより、利用者情報の効率的な把握と研究成果の自動捕捉を目指しています。
  • いち早く国内の学会誌で投稿プロセスに著者のORCID認証を義務化した日本疫学会からは、無料で提供されるPublic APIの限界と、さらにORCIDの活用を進めるため、メンバー参加の必要性について報告がありました。
  • KAKEN国立情報学研究所提供)やresearchmap科学技術振興機構提供)などの国レベルで提供されるシステムでもORCIDを採用するようになり、日本の研究者が各システムをより簡便に利用しながら国際的な可視性を高めることが期待されています。

今回のミーティングで最も印象的だったオープンディスカッションでは、日本のORCIDコンソーシアム設立に向けた具体的なステップについて、司会の森雅生氏がアイディアを呼びかけました。多くの参加者は積極的にこれに応じ、持続的で共生的なコミュニティの推進に必要なコスト負担の考え方や資金源の確保、人材の配置について提案しました。今回のミーティング、そしてコミュニティ全体からも有志を募り、コミュニティ提案を検討するための運営委員会の発足が計画されています。

私たちORCIDスタッフは、真のコミュニティのパワーの発露を目の当たりにすることがありますが、今回のミーティングがまさにそうでした。日本の合掌造りの葺き替えは、時間と熟練の技を無償で提供する多くの村人たちが長い時間をかけて計画し、必要な資材を集め、共同で作業にあたります。まだ規模は小さいですが、研究機関、助成金団体、学協会、システム提供事業者のすべてが参加する日本の多様なORCIDコミュニティは、幅広い要件を満たさなければならず、その形成には時間がかかります。既存の学術インフラの強みを活かしてORCIDを導入しようとする日本のコミュニティを、ORCIDは今後もサポートしていきます。